ベンネヴィス 10年(旧ラベル)
BEN NEVIS
AGED 10 YEARS
アルコール度数:46%
容量:700ml
最低熟成年数:10年
地域:ハイランド
種別:シングルモルト
【香り】
グラスに注いだ直後は油性マーカーのような刺激を感じた。落ち着いてくると、熟れたフルーツのような甘い香りが出てきた。また、薬草のような印象のハーバルさも感じられた。強く嗅ぐと、ハニーグレーズのような甘み。その奥に、やや焦げたような香りも拾えるが淡い。
【味わい】
桃のような濃厚な甘み。(白)コショウのようなスパイシーさ。時間が経つと柔らかな苦みと清涼感。やや金属的な印象も受けるが、嫌な印象は受けなかった。
余韻は中程度で、軽めのピートを感じながら甘さがほのかに残った。
【もう少し詳しく】
サントリーさんから「碧(Ao)」が、ニッカさんから「ザ・ニッカ テーラード」がリリースされました。両方ともネットショップに出ては売り切れ、売り切れては出るという状況が続いています。
飲んでみたい気もする一方でボトルを抱えるまでには至らず、引っ張り出してきたのが今回のベンネヴィス10年です。
ベンネヴィス蒸溜所は、1989年からニッカさんが所有しています。*1日本の企業がスコットランドの蒸溜所を所有する例としては2つ目です。初めての例は、宝酒造が1986年に所有することになったトマーティン蒸留所です。
ニッカさんがベンネヴィス蒸溜所の所有に踏み切った理由は、「技術面ではなく、スコッチ業界から色々な情報を得るため」だそうで、地元の反発が予想されるためダミー会社まで作ったそうです。でも、すぐにバレてしまったのだとか。
何とも反応に困るエピソードですが、地元の方は歓迎してくれたそうなので結果オーライでしょうね。
ベンネヴィスがメイン原酒のブレンデッドウイスキーと言えば「ロングジョン」がありますが、現在は関係が無くなっています。
ニッカさんがベンネヴィス蒸溜所を買収した際に「ロングジョン」ブランドは、アライド・グループが所有することになったからです。
ロングジョンについては、過去に少し触れたので割愛します。 興味があるかたは、良ければご覧ください。
さて、ベンネヴィス10年に話を戻します。ベンネヴィスと言えば「隠れた名品」的なイメージを持っています。知名度は高くないものの、しっかり美味しいと思います。
日本で広く販売されている10年は、アルコール度数が43%で、ラベルに描かれたベンネヴィスがモノトーンですが、今回のボトルは46%でラベルもカラーとなっています。
今回の10年は、少し金属っぽさを感じるところ、ちょっと薬草っぽいところが面白いです。また、後味がじわーっと甘く続くところも好みです。樽の影響をしっかりと受けたのかな?と思いました。
様々な顔を見せてくれるウイスキーで、上述した通り「隠れた名品」だと思います。もっと評価されても良いんですけれど。
なお、海外では今回のボトルとは別に46%版が売られています。アサヒさんが仕入れてくれないかなーと思っています。
【「NEVIS」の意を巡って】
NEVISについては「古代ゲール語で水を表すとも言われる」と紹介しているサイトが多く、コニサー検定試験教本(2015年版)にも「『水の山』の意」と書かれています。
裏ラベルには水について書かれており、一瞬納得しかけたのですが、どうも違うんじゃないかと思います。
と言うのも、ゲール語で水と言えば『ウシュク・ベーハー(Uisge beatha):命の水』が思い浮かびます。「ネヴィス」と「ウシュク」は違いが大きすぎると思うんですよ。
あらためて調べてみたところ、やはり「水」は現代ゲール語で「Uisge」だそうです。国際音声記号は「 /ˈɯʃkʲə/」だそうですから、「ウシュケ」に近い感じですかね。
色々な本を読んだりWebサイトを調べたりしていくと、スコットランドの観光案内サイトに目が留まりました。
About Ben Nevis in Fort William Scotland
Nevis' mean? (中略)In Gaelic the mountain's name, Beinn Nibheis, has been linked with Irish and Gaelic words meaning poisonous or terrible, implying a fairly ominous character.
posonous(有毒)、terribble(おそろしい)、ominous(不吉)。某聖杯のような雰囲気が漂っており、ちょっと穏やかではありません。やはり「Nevis」は水ではないと解釈した方が良いのかもしれません。
ちなみに、Wikipediaでは、同様のことが書かれたうえで、更に別の話も書かれていました。
ペニヴァシュはペニャヴァハシュ (beinn nèamh-bhathais) から転訛したとの説もある。ニャヴァ (nèamh) は「天国」または「雲」、ヴァハシュ (bhathais) は「男の頭頂部」で、「頂に雲がかかった山」[6]とか「天国の山」[5]の意味になる。
原典にあたりたいところですが、たぶん「すんごく高いところは神秘的で、神様がおわすに違いあるめえ」的な雰囲気があったんじゃないかな?と思っています。
【高い山と山岳信仰について】
上述した「すんごく高いところは神秘的で、神様がおわすに違いあるめえ」みたいな価値観は、完全に私の想像ですが、根拠が無いわけではありません。まず、山は信仰の対象になることがあります。「山岳信仰」ですね。
身近な例では、富士山が挙げられます。
また、「山は神様がおわすところ=山に立ち入ったら神の怒りに触れる」的な価値観は、割と多様な民族にみられます。
例えば日本の場合だと、北海道の利尻岳が挙げられます。「利尻」はアイヌ語で「リイシリ:高い島」という意味があります。ここはアイヌ達にとって聖地であり、立ち入らなかったという話を聞いたことがあります。
利尻のアイヌ語地名 - 利尻富士町 ◆利尻島郷土資料館解説シート
http://www.town.rishirifuji.hokkaido.jp/rishirifuji/secure/1362/ainugo-chimei.pdf
海外に目を向けるとエベレストは地元住民にとっては神聖な山です。また、山以外にもウルル(エアーズロック)*2も信仰の対象として挙げられます。
ウルルは先住民アボリジニにとっての聖地であり、本来は立ち入り禁止にしたかったそうです。ただ、観光客による収入があることからレンタルされているそうですが、今年2019年10月26日からウルルは登山禁止となります。
このように、高いものは畏怖の対象であり、平地とはちょっと違う場所という認識は、世界各地で見られました。ですから、ベンネヴィスも同じような認識を持たれていても不思議ではないと私は思います。
なお、宗教と信仰は似て非なるもので、宗教学は面白い分野なのですが、今回は割愛します。山岳信仰については色々な書籍も出されています。興味がある方は、調べてみてください。
【終わりに】
ベンネヴィスはブレンド用の原酒を製造・供給してきたこともあり、知名度は決して高くありません。でも、美味しいと思います。
気になるのは、「ベンネヴィス蒸溜所の原酒がブラックニッカに使われている」という話をちらほら見聞きすることです。
世界中の蒸溜所の情報を掲載している英『モルト・ウイスキー・イヤー・ブック』によれば、ニッカウヰスキーが販売する「ブラックニッカ」には、1989年に買収したスコットランドのベン・ネヴィス蒸溜所の原酒が大量にブレンドされているという。
これに対して、アサヒさんは「ブレンドは非公開」と回答して、否定しているわけではないのが気になります。ただ、こうした話はジャパニーズウイスキーの定義にも関わってきます。
思うところは色々とあるのですが、既に3500字近いので、本日はこの辺りで失礼します。
朝ご飯を待つピートくん(左)とキルシュさん(右)です。
【参考にしたサイトおよび書籍】
富士山と信仰 - 富士山世界遺産課 - 富士宮市 | 静岡県富士宮市
Visit Fort William - B&B, Guesthouse accommodation, outdoor activities and events guide
エアーズ・ロック、登山禁止へ 2019年から | ハフポスト
利尻のアイヌ語地名 - 利尻富士町 ◆利尻島郷土資料館解説シート
Ben Nevis Distillery | Scotland