琥珀色の研究 -A Study in Amber-

( ・x・)<琥珀の沼で泳ぐ「ぱさぱさ」です。ご一緒にいかがですか?

樽(〇〇カスク)について

 はじめに

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 「ウイスキーロールスロイス」という言葉をご存知の方も多いでしょう。これはハロッズという老舗百貨店*1が1978年に出した『Harrods Book of Whisky』という本に書かれた「a Rolls Royce amongst malt.」が原文です。この一節が有名になり、マッカランの大躍進につながったそうです。*2

 もっとも、車に詳しくない私は「フェラーリ」って感じだと思っています。なんか優雅なイメージで近づくと、良い感じのパンチをお見舞いされます。

 さて、 個人的には「樽にこだわる」と聞くとモーレンジが思い浮かぶのですが、ウイスキーを飲み始める方には「なにそれ?」と思われるかもしれません。そこで、ちょっと荒れそうで怖いのですが、マッカランを例に挙げます。知名度は、間違いなく「マッカラン、お前がNO.1だ!!」ですから。

樽の影響は大きい

 そもそも、なぜマッカランは高く評価されたのか?それは、シェリー樽の影響が大きかったことは確実でしょう。マッカランといえばシェリー樽。そう考える人は多いと思います。

 たとえば土屋守氏は、アラン・ジャパン(現ウィスク・イー)とコラボしてバーボン樽熟成のマッカランをチョイスしています。このシリーズは、グレンバーギ23年を飲んだことがありますが、とても好みだったこともあり、好印象を持っています。

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THE SINGLE CASK COLLECTION 
マッカラン8年(1990-1999)
alc.60.7% 700ml
土屋守、アラン・ジャパン

 下に、このボトルの説明文を載せます。読みにくいので書き起こすと「最大の特徴はシェリー樽100%を使って熟成させることであるが、それではバーボン樽ではどうなのか」と前置きしたうえで「ぜひオフィシャルのマッカランと飲み比べてほしい」と結んでいます。

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 これは、要するに「マッカランって普通はシェリー樽だけど、あえてバーボン樽で熟成させましたよ。なかなか無いから飲み比べると面白いですよ」というコンセプトなわけです。私も「マッカランといえばシェリー樽」派なので、このコンセプトは理解できます。1999年は、まだ「マッカランといえばシェリー樽」という認識が一般的だったわけですね。

 それだけに「ハイボールのためのザ・マッカラン」というキャッチコピーのファインオーク12年には驚愕した記憶があります。 

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ザ・マッカラン サントリーウイスキー

 30年ほど前にタイムスリップして「マッカランのレギュラー商品にこんなのありますよ」と言っても、「はははこやつめ、ははは」と一笑に付されてしまうことでしょう。

樽の品質を保つことの難しさ

 現行のマッカラン12年シェリーに話を戻します。決して悪くはありませんが、私としては、ドライフルーツ感が薄まったりナッツの要素も感じられなったりと、全体的に単調になったなあと思います。その理由は、やっぱり樽の影響が大きい気がします。 

 というのも、シェリー酒の消費は減退しつつあり、ボディガ(醸造所)は減少しています。その反面、現在のウイスキー業界は活況で需要が増えました。要するに、シェリーの生産量は頭打ちなのに樽はたくさん欲しいというわけです。そのため、近年では良質のシェリー樽が入手困難になりつつあります。

「BODEGA Sherry」の画像検索結果

File:Sherry cellar, Solera system 2, 2003.jpg - Wikimedia Commons

 もっとも、こうした声は2012年の時点で大きくなってきていたようで、「クライド・クーパレッジ」社の方は、私のように「樽の影響じゃないの?」と言う人に対して、以下のように語っています。

「そういう人は、ヨーロッパナラのヘビーシェリー樽を使ったグランレゼルバのような銘柄を飲んだのかもしれないし、あるいは製造システムの中で輸送樽、スイートシェリー樽、ソレラ樽に大きな差があった50年代や60年代に購入された樽のウイスキーを飲んだのかもしれません」*3

 なんというか「ねえねえ、君ら色々言うけどさあ、昔は樽の品質もばらばらだったのよ?今の方が改善されてるのよ?あとさ、パハレテに影響されたんじゃないの?わかってモノ言ってんの?」って感じで、何だかもう本当に苦労がにじみている気がします。

 実際、シェリー樽も1つ10万円ちかくするそうですし、2017年の時点でマッカラン関係の樽の数は28万個以上だそうです。*4エドリントングループの方々は大変なんだろうなあとは思います。ああだこうだと言って申し訳ないなあと思います。

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 私としては、これからシェリー樽を楽しみたい方は、現行のマッカラン12年シェリーは体験しておいて悪くないとは思います。ただ、品薄の現状でマッカラン12年シェリーを血眼になって探したり転売価格で無理に購入するなら、穏やかな気持ちでグレンフィディック15年を買った方がいいんじゃないの?と思います。

 そのうえで、グレンドロナックやダルモアグレンファークラスなど、他のシェリー物と比較してはいかがでしょうか。「マッカラン以外にも選択肢が増えてきた」と考えれば、それはそれで良いことだと思います。

なぜ色々な樽を使うのか?

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 ガラケー時代の写真なので画質が悪いのですが、蒸留所見学に行くと、このような樽を見学することができます。こうした樽を使い分ける理由には予算の問題もあるでしょう。ただ、樽によって個性が異なるウイスキーが出来上がることも理由に挙げられるでしょう。

 ウイスキーを樽に入れるようになった歴史は長くないのですが、今日では色々な種類の樽に原酒を入れて「〇〇カスクフィニッシュ」や「〇〇カスクマチュアード」のように個性を謳っています。*5
 また、ラベルを見ると「複数の樽を使ってるよ」と書いてあることもあります。こうした情報をラベルから読み取るのも、なかなか楽しいと思います。
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 ちなみに、左から二番目は「ボウモア デビルズカスク ダブル ザ デビル」で、ボウモアに伝わる伝承と複数の樽をかけて名付けられたそうです。興味深い命名ですね。

サントリー「山崎」の場合

 樽に詰められた原酒は、樽の影響を大きく受けながら変化していきます。樽はウイスキーのキャラクターを決める要素の一つとなるわけです。

 例えばサントリーは以前から様々なタイプの山崎を販売しています。古い情報ですが、このような4種類を発売したこともあります。

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サントリーシングルモルトウイスキー「山崎シェリーカスク」「山崎パンチョン」「山崎バーボンバレル」「山崎ミズナラ」数量限定発売 2011.8.2 ニュースリリース サントリー

 

f:id:pasapasadayo:20180118143404p:plain また、最近も山崎ミズナラ2017 EDITION」とか山崎シェリーカスク2016」のように樽を前面に打ち出した商品を発売しています。高騰して買えないと思いますが、機会があれば飲みたいですね。蒸留所へ見学に行くと、樽ちがいのウイスキーを飲めることもあるのでオススメします。

おわりに

 樽の特徴について書きかけたのですが、樽の形状や木材の違いはもちろんのこと、地域性や1stフィルとリフィルの違い、樽を焦がす「チャ―」の度合い、更にはソレラシステムにも触れなければいけなくなります。かなり膨大で深遠です。
 書いている途中で私なんぞの知識と経験よりも、メーカー公式サイトや情報サイトをご覧いただいたほうが、写真も豊富で理解も進むと気が付きました。いくつかご紹介させていただきます。

WhiskyMagazineさんの記事が簡潔で読みやすいと思います。

 サントリーさんは、エッセンスに絞った説明ですね。

 ニッカさんは、かなり細かく書かれています。

有限会社オークバレルさんは、過去の資料のPDFなども掲載されています。

有明産業株式会社さんは、木材についても詳しく書かれています。

Barrelさんは、ミニ樽の熟成について書かれています。

 

*1:もともとはイギリスの百貨店ですが2010年にカタールの政府系投資会社が買収しました

*2:『The Science and Commerce of Whisky』Chap.6 P219-P220 Ian Buxton、Paul S. Hughes 2012年

*3:http://whiskymag.jp/樽が重要 その1【全3回】/

*4:ザ・マッカランの風味を守る究極の番人 | WHISKY Magazine Japan

*5:もちろん、何でもかんでも使えるわけではなくて「バーボンって言うなら、内面を焦がしたホワイト・オークの新樽で熟成させてね」といった規定もあります。