琥珀色の研究 -A Study in Amber-

( ・x・)<琥珀の沼で泳ぐ「ぱさぱさ」です。ご一緒にいかがですか?

「ウイスキー特級」とは

 ここでは、オールドボトルについて「ウイスキー特級」に焦点を当てます。また、「ウイスキー特級」に触れると酒税法にも触れる必要があったので、調べた範囲でまとめました。ただし、私が法律について学んだのは大学時代の一般教育科目が最後です。専門的な解釈などは不十分かもしれません。もし「違うよ」という点があれば教えてください。勉強します。

ウイスキー特級」と酒税法の歴史

 では、最初に一枚の写真をご覧ください。「ウイスキー特級」を見つけられますか?
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 そうですね、ラベル下部に「ウイスキー特級 K2296」と書いてありますね。Kは神戸の略で、神戸税関の管轄を表しているそうです。 

 この「ウイスキー特級」という表示は酒税法に基づき、1962年から1989年まで続きました。日本独自の制度なので、海外のお店で売られていた商品には「特級」が表示されていません。たとえばイギリスに海外旅行に行って、おみやげにウイスキーを買ってきた場合は「ウイスキー特級」の表示は無いわけです。こんな感じですね。

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 さて、1962年からと書きましたが、それでは1961年まではどうなっていたのでしょうか?

1961年まで:ウイスキーが「雑酒」の時代

 今後、この時代のウイスキーを飲む機会には巡り合えないかもしれません。ただ、これを書いている2018年1月現在では、かろうじて「雑酒」という表記に出会えます。

 「雑酒」は「ざっしゅ」と呼びます。「ざっしゅごときに!」と言うと金髪の英雄王っぽくなりますが、別に悪い意味は無いみたいです。

1943年:「雑酒1~3級」の分類

 話は1943年にさかのぼります。1943年に、ウイスキーは「雑酒」に分類されていました。「雑酒」とは日本酒でも焼酎でもないお酒という意味だったようで、どうやら、この時代は清酒の等級分けが重要だったように感じます。
 この「雑酒」のなかでも等級があり、例えばサントリーのオールドやニッカウヰスキーは1級でした。国立国会図書館アーカイブに記録が残っています。

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国立国会図書館デジタルコレクション - 官報. 1943年04月01日

全57ページのうち、20ページから酒税法に関する通知があります。

 

1949年:原酒混和率が規定される。

 その後、第二次世界大戦を経て、1949年にウイスキーの等級があらためられます。この際には「ウイスキーを〇〇%以上使っていますよ」という「原酒混和率」が基準となり、以下のようになりました。

  • 1級:原酒混和率30%以上
  • 2級:原酒混和率5%以上
  • 3級:それ以外

 戦後まもない頃の文献を読んでいると密造酒や粗悪酒、さらにはメチルアルコールも横行し、中毒者や死者も発生する事態となっていたようです。明確な根拠はないのですが、どうも「原酒混和率」の規定については、品質を安定させたいというねらいもあったような気がします。
 ちなみに、1949年は東京理科大学が創立されたり初のお年玉付年賀はがきが販売されたそうです。

1953年:雑酒「特級」が規定される。

 大きな変化があったのは、1953年です。酒税法の全面改正が行われ、「特級」が設けられました。ただし、この時点ではウイスキーはまだ「雑酒」カテゴリに入っています。この時代は、戦後の混乱期から脱出し、原材料の調達や価格設定の自由度が増してきたそうです。

弘前大学経済研究第 34号 132-144頁 久保 俊彦
「日本におけるウイスキー産業発展の経緯
   一産業基盤を形成した1950年代から1960年代を中心に-」
http://human.cc.hirosaki-u.ac.jp/economics/pdf/treatise/34/treatise_34_10.pdf

 なお、1953年はセ・リーグが6球団制になったりNHKテレビの放送が始まったりしたそうです。豊かになりつつあることがわかりますね。

1962年~1989年:「ウイスキー特級」の時代

 1962年に酒税法が改正され、「雑酒」から「ウイスキー類」が独立します。等級は、原酒混和率に応じて設けられ、特級・1級・2級の3つがありました。ここに「ウイスキー特級」が誕生したわけです。f:id:pasapasadayo:20180203114844j:plain

 調べていると「アルコール度数43度以上は特級」という意見も見かけますが、優先されるのは原酒混和率だったようです。ただし、「原酒が少しでも入っていて、なおかつアルコール度数43度以上」だったら特級という扱いだったようで、法学者の三木義一氏が、特級制度への批判も含めて言及している文章が残っています。

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『ジュリスト増刊 総合特集』
「酒と税金」-ダメな酒造りを許している酒税法への疑問ー(民間税調)
http://minkan-zei-cho.jp/wp-content/uploads/692d9209f186d4b2ec628e3a346ee1c8.pdf

 その後、なんだかんだで「ウイスキー特級」を名乗れる条件は、以下のように変わっていきました。

  1. 1962年:原酒混和率20%以上
  2. 1968年:原酒混和率23%以上
  3. 1978年:原酒混和率27%以上
  4. 1989年:級別制度廃止

 味わいはともかく、国産ウイスキーの質は間違いなく高くなっていったようですが……個人的には、現在のウイスキーとは、なんだか違うものという気がします。

1989年:級別制度の廃止(酒税格差について)

 さて、このような級別制度は日本の酒税法に基づいていました。そして、実は諸外国からは評判が悪かった制度です。その理由は、お金の問題です。

 というのも酒の種類によって酒税が異なっていて、特に焼酎の税率は安かったのです。このあたりの話は国税庁の「酒のしおり」という統計情報があります。

国税庁課税部酒税課
「酒のしおり」

酒のしおり|統計情報・各種資料|国税庁

  2018年2月現在、2000年から2017年の記録がPDFファイルで読めますが、用紙が縦になったり横になっています。このままではわかりづらいなあと思っていたところ、わかりやすくグラフにまとめたグラフがありました。苦境に立たされつつあるビール業界の提案文書です。

「ビール・発泡酒・新ジャンル商品の酒税に関する要望書」平成28年8月
ビール酒造組合発泡酒の税制を考える会
http://www.sakebunka.co.jp/archive/letter/pdf/letter_vol24.pdf

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 なお、上のグラフでウイスキーの酒税額が大きく2回下がっているのは諸外国との交渉の結果で、ウイスキー特級廃止の流れと大きな関係があります。

経済産業省
「日本の酒税格差に関する仲裁裁定」

http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/wto/3_dispute_settlement/33_panel_kenkyukai/1997/97-9.pdf

P152「b.日本」から詳しく書かれています。

おわりに 「従価税率適用」は別項目で。

  さて、特級表示のウイスキーの裏面ラベルを見ると、「従価税率適用」と書かれていることもあります。果たしてこれは、何なのか……?

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 この「従価税」についても調べましたが、「隙を生じぬ二段構え」であることがわかりました。長くなったので新たに項目を立てます。よければご覧ください。

「従価」表示について

amberlover.hatenablog.jp