琥珀色の研究 -A Study in Amber-

( ・x・)<琥珀の沼で泳ぐ「ぱさぱさ」です。ご一緒にいかがですか?

キルケラン12年とキャンベルタウンモルトと摩幌美さん40周年

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Kilkerran

Aged 12 years
アルコール度数:46 %
熟成年数:12年
容量:700ml
樽構成:バーボン樽70%、シェリー樽30%
地域:キャンベルタウン
種別:シングルモルト

【香り】

やや若さも感じるが、フルーティーな香りが心地よい。甘夏のような、少し苦味を思い浮かべる柑橘系。また、バニラのような甘い香り。

時間が経つと、やや潮っぽさやコショウのようなスパイシーな香りも感じられるようになる。 

【味わい】

香りと比べてピリッとしたスパイシーさを感じる。キンカウリのような少し青さのある甘みと程よい酸味とともに、潮気を強く拾えた。なお、あまり甘みが広がらないので、香りとのギャップも感じる。

後半は、えぐさも出てきて舌を刺激するが、しっかりとピートが感じられるので、気になるほどではない。

余韻はやや長めでピートが残る。バランスが取れていると感じた。

【もう少し詳しく】

キルケラン12年は2016年にリリースされました。ウイスキーブームを巻き起こした「マッサンとリタ」は2015年3月に最終回を迎えましたが、それ以降もウイスキーブームは下火にならず、キルケラン12年は大きな関心を持って迎えられたことを記憶しています。

長年の愛好家の方々は「久しぶりのキャンベルタウンモルトだ!」ということで、新しい愛好家の方々は「マッサンが行ったキャンベルタウンのモルトだ!」ということで、一時期は、どこに行っても売り切れという状態が発生しました。

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当然、テイスティングコメントを含めた感想に加え、細かな歴史についても、多くの方が既に詳しく書かれることになりました。

そんなわけで、リリースから2年以上経った今になってまとめを書くのは、周回遅れどころか、何周遅れなんだ?という話です。

ただ、せっかくキルケラン12年を飲んだので、自分なりに調べたことや興味を惹かれたことを中心に、まとめていきます。

【キルケランについて】

キルケランを作っているのは、ミッチェルズ・グレンガイル蒸溜所です。かつて1873年から1925年まで操業されており既に閉鎖はされていたものの、建物だけは比較的良い状態で残っていたとのことです。

ちなみに、場所はここです。

グレンガイル蒸溜所を建設するにあたり、かつてインバーゴードンの敷地内に建てられていたベンウィヴィス蒸溜所のスチルを運び込まれました。

ベンウィヴィスは、シグナトリーさんから出た31年ものを一度だけ飲んだことがあります。1977年に閉鎖されてしまっているので、もう飲む機会も少ないんだろうなあと思っています。

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なお、「ミッチェルズ・グレンガイル」からスプリングバンクやケイデンヘッドを思い浮かべた方は、すごいです。

ミッチェルズは「J&Aミッチェル」に由来しており、ここはスプリングバンク蒸溜所を所有し、ボトラーズブランドのケイデンヘッドを経営している会社です。

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スプリングバンクと言えば「スプリングバンクロングロウ、ヘーゼルバーン」という3種類が有名です。

ただ、こちらはブランド名であって、現存する蒸溜所名ではありません。蒸溜回数やピートの違いがあるものの、作られている蒸溜所は、同じスプリングバンク蒸溜所です。

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*1

「キルケラン」の意味は、缶に書かれています。英語です。読んでみましょう。

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Kilkerran is derived from the Gaelic ''Ceann Loch Cille Chiarain'' which is the name of the original settlement where Saint Kerran had his religious cell and where Campbeltown now stands.

なるほど、わからん。

いや、大意はわかるんです。どうやら「キルケランは聖Kerranが住んでいた「religious cell」の名前に由来するよ。この教会はゲール語で「Ceann Loch Cille Chiarain」って呼ばれていたやつで、今もキャンベルタウンに建ってるよ」って感じでしょうか。

気になるのは「religious cell」って表現ですね。日本語だと「教会」って訳している方が多いんですが、「Church」じゃないんですよね。絵も「塔」っぽいし……。

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そんなときに、海外の蒸溜所巡りをされている方のブログを読んでいたところ、キルケランのイメージ図となっている塔は、「Lorne and Lowland Church tower」で調べると良いみたいだ、と気がつきました。

GoogleMAPで調べたところ、キャンベルタウンのロングロウにありました。

 ちなみに、Facebookアカウントもあるようです。

www.facebook.com

どうも、これっぽいですね。「religious cell」の概念はうまくつかめませんでしたが、修行用の建物みたいな感じでしょうか?こういう話題が好きなのですが、興味がない方は「何が面白いんだよ……」という感じかもしれません。すみません。

【キャンベルタウンの蒸溜所について】

さて、キャンベルタウンには、現在、以下の3つの蒸溜所が稼働しています。

    1. スプリングバンク蒸溜所
    2. グレンスコシア蒸溜所
    3. ミッチェルズ・グレンガイル蒸溜所

ただ、かつては30ほどの蒸溜所がひしめいていました。それが、1920年には20ヵ所、10年後の1930年には3ヵ所、そして、1934年には、とうとう2ヵ所だけになってしまいました。

www.ballantines.ne.jp

では、なぜキャンベルタウンから蒸溜所が減ってしまったのでしょうか?

それを調べていくと、政治情勢とウイスキーの流行り廃りに行きつきます。 まずは、こちらの文章を引用します。

キャンベルタウンから米国を目指して出港する移民船に乗り込む人たちはウイスキーをたくさん船に詰め込んで旅に出る。そのためキャンベルタウンのウイスキーは米国でも人気が高くウイスキーで富を得た人々の数も多かった。
シングルモルトの愉しみ方』P81 編・著田中四海、吉田恒道 小学館
赤字部分は、ぱさぱさによる)

出ました「米国」。1900年代の米国と言えば、もう嫌な予感しかしませんね。そうです、禁酒法です。カナディアンウイスキーの躍進につながった禁酒法も、キャンベルタウンにとっては大きなダメージを与えるものでした。
amberlover.hatenablog.jp

おまけに、目先の利益を追い求めて粗悪な品を送り込んだそうで、結果的にキャンベルタウンモルトの評判がガタ落ちしたということです。*2

ここに第一次世界大戦増税、さらにブレンデッドウイスキーとの相性の問題*3が重なり、キャンベルタウンから蒸溜所が一つ、また一つと消えていきました。

そんななかを生き延びてきたのが、スプリングバンクとグレンスコシアで、キャンベルタウンに新しい蒸溜所が建設されたのは実に125年ぶりだったわけです。

アニメや漫画の世界では「兄よりすぐれた弟なぞ存在しねぇ!!」*4とか「兄に勝る弟などいない!!」*5といった具合に冷遇されることもありますが、是非、頑張ってほしいと思います。

【PUB 摩幌美さん40周年について】

さて、キャンベルタウンと言えば、1枚の写真があります。「View of Campbeltown Loch from Gallow hill.c.1900」と書かれているとおり、今から100年以上も前のキャンベルタウンの写真とのことです。

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これは、今年のウイスキーラバーズ名古屋でいただいた写真です。UDのレアモルトが並んでいたブースで飲み比べをした際に、とても感じの良い男性から「良ければどうぞ」と頂きました。

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裏側を見ると「2018年12月摩幌美は四十周年を迎えます。心より感謝申し上げます。」との文章が書かれていました。

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「息の長いお店だなあ」と思いつつ、Googleでお店を検索すると、長野県松本市にある「Pub 摩幌美」さんということがわかりました。

そして、ハガキをくださった方は、摩幌美の店主の堀内貞明さんで、「酋長」と呼ばれていることも知りました。閉鎖蒸溜所を巡るなど精力的に活動されている方とのことです。

ちなみに、Pub 摩幌美さんは、ホームページも兼ねたWebサイト「Wonderful Scotland」も運営されていらっしゃいますね。勉強になります。

www.mahorobi.com

堀内さんは、キルケランの3周年記念パーティーにも招待されるなど、名が知れていることが伺えます。恥ずかしながら存じ上げていませんでした。

さすがに長野県松本市に行くには宿泊が必要なので、なかなか行けません。ただ、せっかくブログを書いているので、せめてこちらでお祝いを書こうと思っていたところ、信濃屋さんから「40周年記念ボトル出すよ」という連絡がきました。

www.sakedori.com

税込価格で2万円近くと、なかなかのお値段なのですが、あまりアードモアを飲んだことがないことに加えて、こういうお祝い事のときぐらい頑張ってみようと思い、予約購入しました。

あらためまして、40周年おめでとうございます。

【最後に】

ちょうど先日、バルヴェニーなどを堪能してきた際に「今までのBar文化を支えてこられた方のお店って素敵だよね」という話題が出ました。

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流行りに乗ることも大切ですが、自分が好きな物事は変わらず応援していきたいなあと思います。

そんなわけで、深夜ですが、久しぶりに『TWIN SIGNAL』のリュケイオン編を読んでから寝ようと思うので、本日はこのあたりで失礼させていただきます。

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 【参考とした資料とWebサイト】

「稲富博士のスコッチノート 第24章 幻のウイスキー・タウン-キャンベルタウン

キャンベルタウンの大出世物語 | WHISKY Magazine Japan 

知識ゼロからのシングルモルト&ウィスキー入門 | 株式会社 幻冬舎

『シングルモルトの愉しみ方』 | 学研出版サイト

グレンガイル蒸留所:お酒の大型専門店 河内屋

キルケラン12年 | Explore our craft philosophy

*1:ロングロウ蒸溜所は1896年に建物が取り壊されました。また、ヘーゼルバーン蒸溜所は1925年に閉鎖され、残っていた建物の一部も2002年ごろには取り壊されたとのことです。『シングルモルトの愉しみ方』P77,79 編・著:田中四海, 吉田恒道 発行:学研プラス

*2:『知識ゼロからのシングルモルトウイスキー入門』P54 著:古谷三敏 出版:幻冬舎

*3:この時期のキャンベルタウンモルトは、ブレンデッドウイスキーとの相性が良くなかったらしく、ブレンダーは個性的なアイラと伸びのあるスペイサイドを好んだとのことです。

*4:北斗の拳』ジャギ

*5:大乱闘スマッシュブラザーズX』大佐