琥珀色の研究 -A Study in Amber-

( ・x・)<琥珀の沼で泳ぐ「ぱさぱさ」です。ご一緒にいかがですか?

インチファッド 14年 2005-2019 ウィスキーファインド

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Inchfad heavily peated
2005-2019
TheWhiskyFind
蒸溜所:ロッホローモンド
熟成年数:14年(2005
アルコール度数:55.5 %
容量:700 ml
カテゴリ:シングルモルトウイスキー

【香り】

最初は潮っぽさを感じる香りが強い。その後、甘口ワインにも通ずる熟れた白ブドウのような強い甘み。全粒粉クラッカー。干し藁。奥にグレーズがけのクッキー。

時間が経つとスモーキーさが強くなってくる。焚火のような煙ではなく、お焼香のような香り。少量加水で、この香りは弱まり少し湿っぽさを感じる香りが出る。

【味わい】

力強いアタック。ややシンプルな印象も受けるが、強い甘みとパワフルなスモーキーさのバランスが良い。また、青りんごのような酸味も感じられる。清涼感はあまり強くない。

余韻は少し短めから中程度。黒コショウのようなスパイシーさを感じつつ、全体的に暖かな印象。

 

【もう少し詳しく】

「インチファッド」は蒸溜所の名前ではありません。ロッホローモンド蒸溜所で造られているへビリーピーテッドタイプのウイスキーです。

ロッホローモンドは多様なウイスキーを造っていて、先日のブラインド問題もロッホローモンドでした。

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amberlover.hatenablog.jp

この他にも多種多様なウイスキーを造っています。よく見かけるDBラインナップは、こんな感じでしょうか。

  • ロッホローモンド
  • インチマリン
  • インチモーン
  • ロッホローモンド シングルグレーン

しかし、実は昔から色々なウイスキーを出しています。例えば、このオールドロスデュー。これもロッホローモンド蒸溜所のものです。

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他にも、グレンダグラス、クレイグロッジ、クロフテンギアなど多種多様なウイスキーがリリースされてきました。

もともとロッホローモンド蒸溜所は、リトルミルの第2工場として建てられましたが、知名度は決して高くはありませんでした。 

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しかし、全英オープンの公式ウイスキーでもあることから、最近では大手酒販店でも大々的に取り上げるようになりました。そのため、じわじわと知名度が上がってきていると感じます。

www.toko-t.co.jp

こういうウイスキーは100mlぐらいのセットが買えると嬉しいので、リリースして欲しいなあと思っています。

【ラベルの「韓愈」について】

さて、ここからは私の趣味全開です。「なぜ韓愈なのか?」と疑問が沸いたので、調べたところ、韓愈の詩に「酒味既冷冽,酒氣又氛氳」と書かれている部分にインスピレーションを得たそうです。「酒味既冷冽,酒氣又氛氳」の出典は『醉赠张秘书』です。

zh.m.wikisource.org

「酒味既冷冽,酒氣又氛氳」意味は「酒はヒヤリと澄んでいるが、飲んだ気分は熱くなる」みたいな感じかなあと思います。

これがインチファッドのピーティーさとフルーティーな要素に合っている……という感じで、韓愈が選ばれたようです。

中国の詩人は、 李白杜甫、白楽天といい、酒が好きな人が多いですね。

【韓愈vsワニ】

さて、ここからが本題です。ラベルでは韓愈がワニと闘っています。韓愈は文武両道だったのか!と思いきや、酒販店さんのWebサイトでは「韓愈は、詩によってワニを退治したという伝説が残される名人」という販促の文章を見かけます。

でも、ラベルは思いっきり物理攻撃をしかけているので「詩とは物理攻撃だったのか?」と疑問も沸きますが、とりあえず目を瞑ります。

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調べると、確かに韓愈にはワニ退治のエピソードがありました。

韓愈は優れた文人としても知られていますが、官吏でもありました。

そんな韓愈は、819年に時の皇帝「憲宗」に長文の意見を具申します。しかし、これが皇帝の怒りに触れてしまい、韓愈は左遷されてしまいます。

左遷先は「潮州」という場所で、現在でも「潮州市」なんだそうです。

昔の中国では左遷された人は、割と悲惨な最期を迎えるイメージなんですが、当時53歳だった韓愈は、堤防を築いたり農業を奨励したりするなど、左遷先で頑張ります。

そんなある日、地域住民から

「船よりもでっかいワニがおって、困ってるんです。何とかなりませんかね?」と報告が寄せられます。

そこで韓愈は祭祀を執り行い

「おい、ワニ。7日以内に海へ行かんと、弓と毒矢で退治するぞ?分かってるな?」と宣言します。

決して物理攻撃を仕掛けたわけではありません。

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と言うか、「弓と毒矢で退治するから」を「詩によってワニを退治」と表現するのは、ちょっと微妙な気もしますが地域住民にとっては、どっちでも良い話ですね。

そんな韓愈の様々な功績を称えた「韓文公祠」が999年に建立され、現在でも観光地として多くの観光客で賑わっているのだとか。

韓愈は、ワニ退治をした翌年の820年には再び都に召されます。韓愈を左遷した憲宗皇帝が死去したからです。

その後も数々の職を与えられますが、824年に世を去りました。ただ、まさかウイスキーのラベルになるなんて夢にも思わなかったでしょうね。

【最後に】

韓愈がワニに物理攻撃した記述は探せませんでした。でも、『三国志演義』では諸葛亮が東風を吹かせたりしているし、そもそも洋の東西を問わず、逸話なんて話を盛って当たり前なんですよね。

現代日本も何でも女体化させていますし、気にしたら負けです。

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なお、韓愈とワニのエピソードには、住民がワニ退治に毒薬を放り込んだ後日譚がありますが、途中からウイスキーと言うより韓愈の話ばかりだったので、割愛します。

興味を持たれた方は、検索してみてください。

それでは、本日はこのあたりで失礼させていただきます。

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暑い日は床に猫が落ちています。冷たい場所を求めるためか、時々ころころ転がっています。動きに合わせて一緒に毛も転がっていくので、頑張って集めています。

【参考にした資料とWebサイト】