【番外編】ショコラの会(後編)
【はじめに】
前回に引き続きショコラの会に関連した話です。
今回はトカイワインに関連して、シャーロックホームズの話がメインとなります。あまりお酒については触れません。
雑学というか「ふーん」ぐらいに読んでいただければ嬉しいです。
【トカイワインについて】
私がシャーロックホームズを好んで読んでいること、このブログタイトルである「琥珀色の研究-A Study in Amber」がシャーロックホームズの最初の作品である「緋色の研究-A Study in Scarlet-」をオマージュしたものであることは、前に書いたとおりです。
シャーロックホームズ好きとして外せないのが、今回の会にも出てきたトカイワインです。トカイはハンガリーにある都市で、トカイ周辺で生産されている貴腐ワインは非常に高名です。*1
この地域では「フルミント」という土着のブドウが有名で、今回は「レイトハーベスト」と名の通り甘口仕立てです。
青リンゴのようなさっぱりした甘さで、とても美味しかったです。隣の席の方が「シードルみたいですねー」と仰っていて「なるほど、確かに」と感じました。
チョコレートと合わせるというよりも、単体で飲んだ方が好みだと感じました。
さて、トカイワインは、シャーロックホームズシリーズに2回出てきます。
1回目は「四つの署名(The Sign of Four)」で、2回目が「最後の挨拶(His Last Bow)」です。((「四つの署名」は長編で、「最後の挨拶」は「シャーロックホームズ最後の挨拶」に収録されている短編集です。それぞれ2作目と44作目です。
特に「最後の挨拶」では、敵対するドイツの敏腕スパイを出し抜いて祝杯をあげながら終わっていくという、印象深い使われ方です。では、トカイワインとは何なのでしょうか?
まず「トカイ」は都市名です。場所はハンガリーの北東に位置し、北部に行くとスロヴァキア、東部に行くとウクライナとの国境に辿り着きます。
トカイでは様々なワインが造られていますが、特に「貴腐ワイン」が名高く、フランスのソーテルヌ、ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼ(TBA)と並んで「世界三大貴腐ワイン」の一つと称されています。
そんなトカイのワイン産地は、2002年に世界遺産に登録されました。
ただ、この「トカイワイン」の呼称については、ハンガリーとスロヴァキアとの間で火種が残っています。それは、スロヴァキア側で作られた貴腐ワインもTokajiと表記することがEUの採決により認められていることです。
火種が残るきっかけとなったのは、1920年に結ばれたトリアノン条約による領土分割のようです。詳しいことは書物に頼った方がよさそうです。
Web上だと、神奈川大学の公開情報に面白い記事があったのでリンクを貼らせていただきます。
「トカイワインをめぐる小さな物語」著:コッペル・アコシュ、出雲 雅志
神奈川大学経済学会 『商経論叢』,52(1-2),59-69 (2017-01-31)
【チョコレートとのペアリングについて】
さて、いちおう「ショコラの会」について書いているのでチョコレートについても書いておこうと思います。
これまでも「山崎×チョコレート」について幾度か書きましたが、このときは単純に美味しかった記憶が残っています。
ただ、今回の会に参加して、チョコレートとワインはしっかり考える必要があると感じました。
今回用意していただいたのは全て甘口ワインなのですが、トカイのレイトハーベストは、ちょっとサッパリしていました。このサッパリ感は、ビターチョコレートの苦味と合わさることで、強い酸味に変化してしまいました。
それに対して、甘みをしっかりと感じたポートワインやマディラワインは、あまり気にせずに合わせられました。
そう考えていくと、決め手になるのは、おそらく酸味と苦味の組み合わせなのかな?と思いました。
調べてみると、確かに酸味と苦味は合わない、というチャートがありました。
気になったのでポールジローのスパークリングジュースとチョコレートを合わせてみたのですが、やはり合わないと感じたので途中で止めました。
スパークリングジュースそのものはしっかり甘いのですが、やはりフレッシュさもあり、このさっぱりした部分がチョコレートに合いませんでした。
シャンパーニュなどの発泡ワインは、苺などのフレッシュなフルーツと合わせるのが鉄板かと思いますが、ベリー系のケーキと合わせると美味しかった記憶があります。
この場合は「酸味×酸味」という組み合わせに近かったので、あまり問題にならなかったのでしょうね。
いずれにせよ、「酸味×苦味」という組み合わせについては、少なくとも私はストライクゾーンが狭いことがわかりました。
ボンボンが美味しいのは、甘みが強く主張するからなのでしょうね。
ただ、これを以って「ワインにチョコレートは合わない」みたいに考えるのは早計だと思います。最近「ミルクチョコレート×シャルドネ」という宣伝も見かけたので、今後も色々と試していきたいと思います。 楽しみです。
【最後の挨拶(His Last Bow)」について】
ところで、ウイスキーもワインも関係ないんですが、「最後の挨拶」を紹介させてください。これは、ホームズシリーズで私が一番に好きな話です。
特に、最後のシーンが大好きです。ちょっと長いのですが紹介させてください。訳は私によるものです。
"There's an east wind coming, Watson."
東風が来るね、ワトスン君"I think not, Holmes. It is very warm."
そんなことないよ、ホームズ。あったかいもの。"Good old Watson! You are the one fixed point in a changing age.
いやはやワトスン君、きみは相変わらずのきみなんだねえ。
この話は、トカイが分割されるきっかけとなった第一次世界大戦の最中に掲載されました。ドイツのスパイを捕まえるという話でもあり、ホームズはドイツを暗示して「東の風」と言いました。
ところが、ワトスン君は文字通りに受け取って「なーに言ってんの。東から風なんて吹かないよ」と返事します。
最後の挨拶では、ホームズとワトスンは久しぶりの再会を果たすという設定なのですが、何年たってもワトスン君は素直なままです。それをホームズが「ああ、君は昔のままの君なんだね」と懐かむわけですが、このシーンは、かなりじーんとするシーンです。
この後も、ドイルの熱が感じられる筆致です。
There's an east wind coming all the same, such a wind as never blew on England yet.
でもね、東風は吹くんだ。これまでイングランドに吹いたことがないような風がね。
It will be cold and bitter, Watson, and a good many of us may wither before its blast.
冷たくて厳しい風なんだよ、ワトスン君、多くの善良な人が力を失ってしまうだろう。
But it's God's own wind none the less, and a cleaner, better, stronger land will lie in the sunshine when the storm has cleared.(略)"
だけど、この東風は神が吹かせる風なんだ。そして、嵐が過ぎ去った後には、より清く、より良く、より強い国土が明るい陽射しのもとに広がることになるのさ。
この話については、「自動車」をさす代名詞が「her」だったり、ドイルの生い立ちだったり色々と書きたいこともあるのですが、お酒と全く関係ないのでこのあたりで止めておきます。
ちなみに、この挿絵は敵スパイを車に放り込むシーンです。
【最後に】
最近はウイスキーも「アマローネカスクフィニッシュ」とか「ソーテルヌカスクフィニッシュ」など、ワインと関係する商品が出てきました。
ワインのことはほとんどわからないので、少し勉強しています。ウイスキーの歴史は密造の歴史、ワインの歴史は戦争と饗宴外交の歴史と言える気がします。
できる範囲で、色々と楽しんでいこうと思いつつ、本日はこのあたりで失礼させていただきます。