琥珀色の研究 -A Study in Amber-

( ・x・)<琥珀の沼で泳ぐ「ぱさぱさ」です。ご一緒にいかがですか?

アードベッグ 21年(1992-2013 ) ハンターレイン OMC JIS向け

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アードベッグ 1992年 ForJIS

ハンターレイン OMC Special Cask
アルコール度数:49.6%
容量:700ml
熟成年数:21年(1992年3月~2013年8月)
国:スコットランド
地域:アイラ島
備考:シングルカスクカスクストレングス

【香り】

グラスに鼻を近づけると、シャープな印象を受けた。

時間が経つと、柑橘系の香りが強まってくる。こちらもすっきりとした印象。グレープフルーツのようなイメージ。その後、麦やバニラといった甘さを感じる香りも感じられるようになる。

さらに時間が経つと、潮っぽい香りが強くなった。出汁のような香りとも言えるかもしれない。

【味わい】

しっかりとしたアタックだが、刺激的ではなく心地よい。香りと同様に柑橘系のニュアンスとともに、シロップのようなしっかりとした甘みも感じられた。

その後、スモークと塩気が感じられるようになる。燃えた木のような香りが鼻腔に広がり、そのまま長く滞留する。余韻は長めだろう。

【もう少し詳しく】

アイラモルトのなかでもアードベッグは特に有名ですね。ウイスキーを全く飲まなくてもご存知の方もいらっしゃいます。

ただ、アードベッグ?なんかキツくてヤバいんでしょ?」みたいに、ちょっと曲がって伝わっていることがあります。

アードベッグが「キツくてヤバい」みたいな評価を受ける理由は、ピート香が原因でしょう。ただ、私個人は「アードベッグ(TEN)は結構甘い」と思っています。

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「いやいや、お前の味覚がおかしいんだよ」と言う意見もあるでしょう。確かにそうかもしれません。ただ、「アードベッグはなんかヤベー飲み物」とドラッグみたいに評価するのは、ちょっと違うかなあと思います。

確かにピートはしっかり感じますが、系統としては、スモーキーな感じでしょうか。薬品臭を挙げるのであれば、ラガヴーリンの方が強い気がします。

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また、飲み口も比較的ライトな印象を受けます。特に、ここ最近のリリースは比較的マイルドなものが多く、それゆえにアードベッグ愛好者の一部からは不満の声が上がっていました。

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そういう声を受けてなのか、昨年のアードベッグデーで出された「グルーヴス」は、少し路線が異なっていました。コンセプトである「ラブ&ピート」の通り、野焼きを連想するなど、なかなかピートが前に出てきていました。

ただ、こちらも薬品臭よりも煙っぽい印象でした。また、果実的な甘さも感じられました。

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メモを読み返すと、こんな感じです。

少し落ち着くと、スパイシーさや甘い香りも感じられた。果実の風味はあまり拾えなかったが、リンゴのニュアンスは感じられた。また、スモークした果物の香りも感じたが、それが何かまでは拾えなかった。

amberlover.hatenablog.jp

では、なぜ「アードベッグ=すんごいピート」なのでしょうか?調べてみたところ、1970年代蒸留のアードベッグには、現在とは異なるピーティーさがあるため、この年代のアードベッグを好む方も多いのだとか。*2

フロアモルティングも行われていましたが、1973年にハイラム・ウォーカー社に買収され、1974年に行われたフロアモルティングがアードベッグ最後となりました。 *3

この年代のアードベッグを飲んでみたいのですが、1970年代は、もう50年近くも前になります。後述しますが、アードベッグ蒸溜所は閉鎖されていた時期があり、長熟原酒のストックが少なくても不思議ではありません。

ですから、トゥエンティーサムシングが出たときには「オフィシャルの長熟だー!」と話題となりましたが、これも90年代の原酒ですよね。

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ちょっとアードベッグの歴史を追いかけてみようと思います

アードベッグの歴史について】

アードベッグの歴史は、だいたいこんな感じですね。

  • 1815年:島の住人によって創業。1970年代前半まで、地元資本が運営
  • 1973年:ハイラム・ウォーカー社によって買収される。
  • 1981年:未曽有のウイスキー不況のために閉鎖
  • 1990年:アライド社に経営が移り、操業を再開する。ただし、不人気だった。*4

今回のアードベッグは1992年蒸留ですから、トゥエンティーサムシング同様、再稼働後に蒸留されたことになります。

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ちなみに、再開したといっても稼働機関は1年のうち2か月間程度で、ひっそりとしたものだったそうです。

1997年に買収されたときのエピソードが「アードベッグの歴史」に紹介されています。

これを読むと、壊れたブレーカーボックスを靴箱で代用していたりアードベッグは素敵なところだよ!」と言われて来てみたものの、あまりにボロボロでびっくりしたり……。なかなか大変だったようです。

www.ardbegjapan.com

劇的に変わったのは、1997年にグレンモーレンジィ社がアードベッグを買収してからです。資金をガンガンつぎ込んで、アードベッグを復活させました。

そのグレンモーレンジも2004年にモエヘネシー・ルイヴィトン傘下になり今日に至ります。

www.theglenmorangiecompany.com

ちなみに、再稼働後のアードベッグについて、特に1990年代についてはピートの度合いが少し軽めだったと聞いたこともあります。この理由としては「あまりピートを炊くと売れにくいから」というものでしたが、不確かな話で私も検証したことがありません。

ご存知の方がいらっしゃれば、教えていただければ幸いです。

【ハンターレインについて】

さて、今回のアードベッグディスティラリーボトルではなく、ボトラーズブランドですね。

「あれ、ボトラーズって久しぶりかな?」と思い調べたところ、12月末のマキロップチョイス以来のようです。

amberlover.hatenablog.jp

残念ながら、ボトラーズについて、私はあまり知識を持ち合わせていません。大手というか有名どころは知っているものもありますが、販売店やバーにお勤めのプロフェッショナルな方々や、ボトラーズブランド愛好家の方々の方の知識量には、到底足元にも及びません。

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ウイスキープロフェッショナル認定試験も、重点は製法と歴史に置かれています。ボトラーズブランドについて問われることは、ほとんどありません。

そんなわけで、今回は自分の勉強も兼ねてハンターレインについて調べたところ、ありがたいことに、JISさんに詳しい解説が書いてあります。

www.jisys.co.jp

ざっくりまとめると、

1948年にグラスゴーでダグラスレイン社が設立される。その後、創業者の2人の息子が代表を務めていたが、2013年に分社した。その際、兄のスチュワート・レイン氏が新会社「ハンターレイン」社を設立し、OMCなどのブランド名を引き継いだ。その代わり、ダグラスレインという社名は弟のフレッド・レイン氏が引き継いだ。

こんな感じでしょうか。

パッケージに描かれているライオンも、新会社になって以降だそうです。

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なぜ分社したのか気になるところですが、兄弟ともなると、きっと色々と大変なこともあるのでしょうね。

【アードナッホー蒸溜所とクルタ蒸留所】

ちなみに、ハンターレイン社もダグラスレイン社も、自前の蒸溜所の所有に向けて動き始めています。

このうち、ハンターレイン社はアイラ島にアードナッホー蒸溜所を造りました。

ardnahoedistillery.com

パンフレットには「2018年の春にオープンするよ」みたいに書かれていますが、11月末に訪れた方が「まだ工事中のところもあった」と書かれていました。

ただ、ツイッターアカウントやプレスリリースを読む限り、現時点では、ほぼ完成して本格稼働待ちのようです。カスクオーナーも募集していますね。

公式サイトには、こんな感じで載っています。

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対するダグラスレイン社も、グラスゴーに「Clutha(クルタ)蒸溜所」を作る計画を進行させているとのことです。

Webサイトは既に完成しており、なかなか渋い感じに仕上がっています。

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www.cluthawhisky.com

ただ、「Our Distillery will open in 2019」と書かれているだけで、詳しいことは一切書かれていません。「秋に完成するよ」という話がツイッターで流れていましたが、果てさて……?

ただ、建設予定地の取得も含めて目途はついているようなので、順調に進むと良いですね。

sltn.co.uk

【最後に】

重複しますが、 ボトラーズブランドは私自身がよくわかっていません。でも、分からないということは、これから分かるようになる余地が残されているということでもあり、楽しいことです。

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それに、仮に分からないままでも、「美味い美味い」と飲んでいくだけですし、どっちにしろ楽しいことです。

これからも美味しいお酒を美味しく飲んでいきたいなーと思いながら、本日はこのあたりで失礼させていただきます。

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【今回参考にした資料およびWebサイト等】

『 LIQUL No.17』発行:一般社団法人 酒育の会

shuiku.jp

株式会社ジャパンインポートシステム|ハンターレイン

www.jisys.co.jp

ウイスキーコニサー資格認定試験教本2015下巻
www.scotchclub-shop.org

シングルモルトのある風景-アイラ、それはウィスキーの島』文:山岡秀雄 写真:渡辺裕之 出版:小学館

www.shogakukan.co.jp

『WhiskyGalore Vol.02』スコッチの聖地を訪ねる アイラモルト8蒸留所の完全ガイド 出版:ウイスキー文化研究所

scotchclub.org

*1:『 LIQUL No.17』発行:一般社団法人 酒育の会

*2:シングルモルトのある風景-アイラ、それはウィスキーの島』文:山岡秀雄 写真:渡辺裕之 出版:小学館

*3:『WhiskyGalore Vol.02』スコッチの聖地を訪ねる アイラモルト8蒸留所の完全ガイド 出版:ウイスキー文化研究所

*4:アライド社はラフロイグも所有しており、アイラモルトの主軸をラフロイグに定めました。そのため、アードベッグは荒廃の一途をたどったそうです